夏目漱石 『夏目漱石全集〈8〉5 of 5』【道草】〈海のものともつかず、山のものともつかず・・・〉 本作『道草』は漱石晩年に書かれた「私小説」であるそうですが、思えば私小説というのはナラティブ・セラピーの一種であるのかもしれません。作者のうちに蟠る黒い塊の出所を克明にアウトプットし、それが読み手の塊りと共鳴し合うことができればめ... 2023.07.21 夏目漱石
夏目漱石 『夏目漱石全集〈8〉4 of 5』【こころ】〈名もなき人々〉 「名無しさん」の物語 私は『こころ』を読んでいてふと疑問に思ったことがありました。なぜ登場人物はみなことごとく匿名なのだろう・・・と。物語の語り手はどこまでも「私」だし、実質的な主人公もどこまでも「先生」。その親友である「K」に至っ... 2023.07.01 夏目漱石
夏目漱石 『夏目漱石全集〈8〉3 of 5』【こころ】〈先生の罪〉 加害者「先生」 さて、『こころ』における最大の悲劇の主人公は誰でしょう? 親友を裏切った傷を20年もの長きにわたって引きずりつづけた「先生」でしょうか? それとも自らの弱さを前にして、苦悩の果てに自死を遂げた「K」でしょ... 2023.07.01 夏目漱石
夏目漱石 『夏目漱石全集〈8〉2 of 5』【こころ】〈エゴイズムの根っこ〉 「先生」と「私」 人はなぜ人につっかかりながら生きるのでしょう? なんだかずいぶんな物言いですが、人は良かれ悪しかれ他者に”つっかかり”ながら生きてはいないでしょうか? 人は頼まれもしないのに他人に興味を持っては良くも悪くも”... 2023.07.01 夏目漱石
夏目漱石 『夏目漱石全集〈8〉1 of 5』【こころ】〈人をつなぐものと縛るもの〉 人はなぜ死なないのか? 私は幼いころから疑問だったのです。 なぜ人は自殺をしないんだろう、と。 なんだか恐ろしいガキンチョだったように思われそうですが、べつにこんなことを始終考えていたわけではありません。... 2023.07.01 夏目漱石
夏目漱石 『夏目漱石全集〈7〉2 of 2』【満韓ところどころ・思い出す事など】〈思い出した事など〉 『満韓ところどころ』 本作は、読んでいるうちに煮詰まってしまいそうな『行人』、そしてそれ以前の『彼岸過迄』や『門』などと比べればホッとする、『吾輩は猫である』や『坊ちゃん』を思わせる平易かつ諧謔に満ちた文章が心地良い作品であります。... 2023.07.01 夏目漱石
夏目漱石 『夏目漱石全集〈7〉1 of 2』【行人】〈背教者かく語りき〉 兄は学者であった、また見識家であった。その上詩人らしい純粋な気質を持って生まれた好い男であった。けれども長男だけにどこかわがままなところを具えていた。自分から云うと、普通の長男よりは、だいぶ甘やかされて育ったとしか見えなかった。... 2023.07.01 夏目漱石
夏目漱石 『夏目漱石全集〈6〉』【門・彼岸過迄】〈記憶してください、私はこんなふうにして生きて行くのです〉 『門』 二人はとかくして会堂の腰掛ベンチにも倚よらず、寺院の門も潜らずに過ぎた。そうしてただ自然の恵から来る月日と云う緩和剤の力だけで、ようやく落ち着いた。時々遠くから不意に現れる訴えも、苦しみとか、恐れとかいう残酷の名... 2023.07.01 夏目漱石
夏目漱石 『夏目漱石全集〈5〉』【三四郎・それから】〈すべて身に覚えのある痛みだろう?〉 本巻に収録されるのは『三四郎』と『それから』。ともに平易な文体が読み易く、殊に『虞美人草』などと比べれば格段の親しみ易さであります。しかし私にとっては本巻、とくに『三四郎』が最も読み始めるに際しての敷居が高かったのです。なぜなら本作を形容... 2023.06.27 夏目漱石
夏目漱石 『夏目漱石全集〈4〉』【虞美人草・鉱夫】〈渡る世間はナントカばかり〉 這う這うの体で読み進める夏目漱石全集〈4〉には『虞美人草』と『坑夫』が収録されております。さて。 『虞美人草』 これまで読んできた漱石作品のなかでも「美文調」といえば、『幻影の盾』『薤路行』『草枕』が挙げられます。いず... 2023.06.27 夏目漱石