芥川龍之介 芥川龍之介『猿』 叩かれる孤独と叩く孤独 私はかつて、聖書を愛読しているにもかかわらず信仰心は持っていなかったという芥川龍之介のキリスト教観を不可解なものだと思っていましたが、今ではこの両者は矛盾することなく両立しうるものであると確信しています。 神を信じない者がそ... 2023.07.31 芥川龍之介
カフカ カフカ『断食芸人』 これは私たちの物語 断食がエンタメ? 本作は20ページにも満たない短編小説です。カフカといえば『変身』や『審判』『城』など一見不可思議・不条理な物語を描く作家というイメージが一般的かもしれませんが、本作の世界もまた不可思議です。なにせ「断食を見物するこ... 2023.07.30 カフカ
ヘッセ ヘッセ『車輪の下』〈ハンス・ギイベンラアトの居るところ〉 ハンス・ギイベンラアトはなぜ死なねばならなかったのだろう? 本書を読んだ人々の最大の疑問はこれに尽きるのではないでしょうか。なまじ勉学が優秀だったばかりに周囲から身勝手な期待を寄せられ神経をすり減らしたハンス。型に嵌... 2023.07.28 ヘッセ
鴨長明 鴨長明『方丈記』所感 岸辺に佇む者たちへ 家族でも家庭でも金銭でも夢でも、その人が自らの大切なものの則って生きることは自由であるけれど、突如としてそれらが失われたり奪われたり立ち消えてしまうことは珍しいことではありません。有形無形の「人生の蓄積」というやつは、いつどこで無に帰すか... 2023.07.28 鴨長明
ガストン・ルルー 『オペラ座の怪人』 ファントムが求めた愛のようなもの(原作・舞台) 「人に愛されるためにはまず自分から人を愛さねばならぬ」と言いますが、一度たりとも人に愛された記憶を持たない者が、それでも自ら先んじて人を愛することは可能なのでしょうか? もしかすると愛情というものは投資に似て、適切な「銘柄」... 2023.07.28 ガストン・ルルー
ゲーテ ゲーテ『若きウェルテルの悩み』〈こんなものが、恋でたまるか〉 この小説は発表された18世紀のドイツ分断にとてつもない衝撃を与えた作品であったと言います。手元にある新潮文庫『若きウェルテルの悩み』巻末解説によれば本作は「これまでの小説の常識を完全に打ち破る作品」であり、更には「この作品によって自殺が流... 2023.07.21 ゲーテ
夏目漱石 『夏目漱石全集〈8〉5 of 5』【道草】〈海のものともつかず、山のものともつかず・・・〉 本作『道草』は漱石晩年に書かれた「私小説」であるそうですが、思えば私小説というのはナラティブ・セラピーの一種であるのかもしれません。作者のうちに蟠る黒い塊の出所を克明にアウトプットし、それが読み手の塊りと共鳴し合うことができればめ... 2023.07.21 夏目漱石
夏目漱石 『夏目漱石全集〈8〉4 of 5』【こころ】〈名もなき人々〉 「名無しさん」の物語 私は『こころ』を読んでいてふと疑問に思ったことがありました。なぜ登場人物はみなことごとく匿名なのだろう・・・と。物語の語り手はどこまでも「私」だし、実質的な主人公もどこまでも「先生」。その親友である「K」に至っ... 2023.07.01 夏目漱石
夏目漱石 『夏目漱石全集〈8〉3 of 5』【こころ】〈先生の罪〉 加害者「先生」 さて、『こころ』における最大の悲劇の主人公は誰でしょう? 親友を裏切った傷を20年もの長きにわたって引きずりつづけた「先生」でしょうか? それとも自らの弱さを前にして、苦悩の果てに自死を遂げた「K」でしょ... 2023.07.01 夏目漱石
夏目漱石 『夏目漱石全集〈8〉2 of 5』【こころ】〈エゴイズムの根っこ〉 「先生」と「私」 人はなぜ人につっかかりながら生きるのでしょう? なんだかずいぶんな物言いですが、人は良かれ悪しかれ他者に”つっかかり”ながら生きてはいないでしょうか? 人は頼まれもしないのに他人に興味を持っては良くも悪くも”... 2023.07.01 夏目漱石