読書

村田沙耶香

村田沙耶香『しろいろの骨の、その街の体温の』〈ことばを愛するすべての人へ〉

本書を読み進めるうちに「自伝的作品」という言葉が頭にちらつきます。 この物語は作者の半生を描いているのだろう・・・という意味ではなく、それが文章にせよ音楽にせよその他どのような手段にせよ表現に関わりたがる人間たちすべてに共有...
夏目漱石

夏目漱石『硝子戸の中』〈半信半疑で見つめる己のこころ〉

「雑記ブログ」への覚悟 本作は晩年の夏目漱石が連載したエッセイ集であり、漱石がこもる書斎を仕切る硝子戸の中で起こった事々、そして硝子戸越しに眺める世間との関わりに関する事々を徒然なるままに綴った「雑記ブログ」のような内容です。 ...
芥川龍之介

芥川龍之介『おぎん』〈それは愛かエゴイズムか?〉

芥川龍之介の小説には「切支丹もの」と呼ばれる、キリスト教を信仰する人々を描いた作品群があるようです。「宗教」と聞けば「胡散臭い」という木霊を返すことの多い私たち日本人ですが、本当に私たちは「宗教」と無縁の存在なのでしょうか? ...
アナトール・フランス

アナトール・フランス『シルヴェストル・ボナールの罪』 引きこもりの罪と罰。そして救いのようなもの

私とシルヴェストル爺さんの罪深き生活 「年がら年中本ばかり読みながら誰にも会わずに引きこもっていたい」というのが私の年来の夢であります。「知らねぇよ だ か ら 何 だ よ 」と言うなかれ。一応本書と関係なくはないんだからまぁちょっ...
芥川龍之介

芥川龍之介『奉教人の死』 お前の苦しみは、私がいちばんよく知っている。

芥川龍之介は新約聖書を愛読していたそうです。彼のキリスト教観には様々な意見があるようですが、少なくともキリスト教に入信していたわけではなく、先進文化としての西洋文明・思想の源流としての興味、そして批判の対象としていたというのが一般的な理解...
芥川龍之介

芥川龍之介『猿』 叩かれる孤独と叩く孤独

私はかつて、聖書を愛読しているにもかかわらず信仰心は持っていなかったという芥川龍之介のキリスト教観を不可解なものだと思っていましたが、今ではこの両者は矛盾することなく両立しうるものであると確信しています。 神を信じない者がそ...
カフカ

カフカ『断食芸人』 これは私たちの物語

断食がエンタメ? 本作は20ページにも満たない短編小説です。カフカといえば『変身』や『審判』『城』など一見不可思議・不条理な物語を描く作家というイメージが一般的かもしれませんが、本作の世界もまた不可思議です。なにせ「断食を見物するこ...
ヘッセ

ヘッセ『車輪の下』〈ハンス・ギイベンラアトの居るところ〉

ハンス・ギイベンラアトはなぜ死なねばならなかったのだろう? 本書を読んだ人々の最大の疑問はこれに尽きるのではないでしょうか。なまじ勉学が優秀だったばかりに周囲から身勝手な期待を寄せられ神経をすり減らしたハンス。型に嵌...
鴨長明

鴨長明『方丈記』所感 岸辺に佇む者たちへ

家族でも家庭でも金銭でも夢でも、その人が自らの大切なものの則って生きることは自由であるけれど、突如としてそれらが失われたり奪われたり立ち消えてしまうことは珍しいことではありません。有形無形の「人生の蓄積」というやつは、いつどこで無に帰すか...
ガストン・ルルー

『オペラ座の怪人』 ファントムが求めた愛のようなもの(原作・舞台)

「人に愛されるためにはまず自分から人を愛さねばならぬ」と言いますが、一度たりとも人に愛された記憶を持たない者が、それでも自ら先んじて人を愛することは可能なのでしょうか? もしかすると愛情というものは投資に似て、適切な「銘柄」...
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